8月27日(日)
晴天である。
娘に、
劇団グラハムヘルツの稽古に行く事を伝えると、
「なんだかよく分からないけど、
がんばってね」
と返された。
こちらも、
娘が無職転生だ推しの子だ転スラだと
好きなアニメの話をしてくると、
「なんだかよく分からないけど、
今度観てみるよ」
と返しているから、
おあいこである。
ちなみにそう言ったのに
父がまだ観ていないアニメを
娘は
‘‘宿題‘‘
と呼び、
「まだ文ストのシーズン1の途中しか観てないの?
宿題遅くない?」
そう小言を吐いてくる。
ねこようです。
グラハムヘルツの
スタッフも合流しての
初稽古の日だ。
前に書いたように、
埼玉東京横浜とみんなの距離が遠いので、
稽古で全員が顔を合わせるのは、
いつも二、三回。
あとは
ビデオ通話会議と
確認したい事や聞きたい事は、
LINEで送信送信とにかく送信。
だ。
先ずは、
稽古始めの儀式となっているが、
みずき様の肖像画を北の方角に置き、
皆で跪いてそれに拝礼10回を行う。
皆に混じって伊藤本人も肖像画に拝礼していて、
誰を崇めてるんだかよく分からん状況となった。
その後は、
やはり恒例の
グラハムヘルツ讃美歌第十七番を合唱する。
♪うっせぇ うっせぇ うっせぇわ!!!
○○○○〇が思うより健康です!!
・・・・・・・・・・・・・・・・!!
・・・・・・・・・・・・・・・・!!
・・・・・・・・・・・!!!!!!
これ以上は、
書くと恐らく・・
いや絶対世間的にダメな歌詞だったので、
掲載を見送りました。
さて稽古だ。
脚本は読み、
いろいろとビデオ通話で打ち合わせはしてきたが、
生で演技をするのを観るのは初めてだ。
あー、なるほどそう動いたのね。
あ、そこでこういう演技をするんだ。
という感じで観ていながら、
頭の中ではやはり現実的な部分を考えてしまう。
小道具がこれとこれとあれで、
エ? 映像映すスクリーンの大きさって?
だから、そこの壁をこうこうこうして・・・
う~ん、クマが・・・クマが・・・
クマをどうすりゃいいんだ~!!!
こういう時は、
演出的な目線で観たりするのか?
ってよく聞かれる。
まー、一回しか聞かれた事無いが。
正直言って、
そういう目線で観ている部分も
ある事はある。
しかし我々は裏方。
言ってみれば戦争屋みたいなものだ。
先ずはどんな戦場で戦うかを考えて、
それにはどんな武器が必要なのか?
弓か刀か棍棒か?
昔の女
裕美か加奈子か近藤さんか
まぁただの語呂ですが。
とにかく(汗拭き(;^_^A)
現実的な事を考えていく。
音響の石井さんなんかは、
「上下にスピーカー置いてぇ、
前にもスピーカー置いて、あとは・・・・」
と、
まるでスピーカー業界の各社ショールームに
でもしたいのかと思うほどに
スピーカーを置こうとするので、
ちゃんと事前に確認して
聞いておかないといけない。
そのうち、
舞台前面にスピーカーを
ズラッと並べそうだな。
そして、
本日の一番の議題は
これだけの小道具を
劇場に運搬するのをどうすればいいのか。
という話になった。
伊藤瑞貴家は軽自動車。
石井さん宅も軽自動車
私とほぉちゃんは徒歩電車組。
なので、二台の軽自動車で
石井さん宅の音響のスピーカーやコードの機器もあり、
小道具をどうやって積み込んで運び出すのか?
あれをこっちに入れて、
それとかはちょっと見直して減らして、
あとはクマか・・・
やっぱりクマか・・・・
じゃあ、クマは助手席か?
みんなであれこれどうしようか
意見を言い合っていた時、
「軽自動車演劇」
誰かがボソッと呟いた。
「そうだ!
私達は小劇場演劇でもなくて、
軽自動車演劇なんだぞ!!
二トン車? 軽トラ?
ふざけんな!
こちとら軽だぞ軽!
軽自動車演劇、なめんなよ!!!」
伊藤の激に、
それまで後ろで黙って座っていた黒帽子の女どもが
パチパチと手を叩き、
みずき様さすがです。
カッコよすぎます!
神々しいですわ。
あぁ私なんだか感動しました。
そう口々に言い、
中にはハンカチで目元をおさえているのまでいる。
いやお前ら、
演技やってる時に感動しろよ。
そう心の中で言いながら
盛り上がる奴らを眺めていたら、
例の黒帽子の髪長リーダーと目があってしまい、
「舞台監督ふぜいが、
なんですか?」
と棘のある言い方で睨まれた。
そんなこんなで今日の稽古は終わる。
それじゃお疲れ様で~す。
と皆で解散となった。
帰り道、
石井夫婦とも別れて
一人になって家路を歩いていたら、
人気の無い裏道で、
急に目の前に女が立ちはだかった。
背後を振り向くと、
三人ほどで固めている。
目の前の黒帽子がパチンと指を鳴らすと、
女たちが一斉に腕や足に組み付いてきた。
しまった!!!
なんては思わない。
こんな事もあろうかと、
出来上がったばかりの
「部屋としゅーちゃくと私」
のチラシを、
多めにもらっておいたのだ。
一瞬早く、
バッグから出したチラシを
薄暗い歩道に
バッとばらまいた。
「ああ、伊藤様のおチラシが!!」
「汚れてしまう!!」
「あ、水たまりが!!」
女どもがあたふたと道に落ちた
チラシを拾っているうちに、
こちらは走って無事に逃げおおせた。
「舞監!!
次はこうはいかぬからなー!!!」
黒帽子の女の、
何時代のセリフだか分からぬ甲高い声が
夜空に響きわたった。
ねこよう